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呪術者の顔,学者,科学者,技術者,そして援助者の顔だが,医師が人間を対象とするものである限り,医師は患者を冷徹な科学者,技術者の目だけでなく,人間の鋭い洞察者として,その患者を全人的に把握できる人でなくてはならない. 私なりに,“よい医師”の十ヵ条をあげてみた. @医師たるものは,なによりも医師としての“ウデ”を磨かねばならない.それによって始めて専門職たりうる. A患者は医師にとって大切な顧客である.“診てあげよう”という態度でなく,“診させていただく”という謙虚で温かい心で接しなければならない. B患者の訴えをよく聞き,丁寧に診察し,その結果や治療方針を患者にわかりやすい言葉でよく説明する.それによって患者の苦痛は半減し,医師への信頼感が生まれる. C検査だけに頼って,患者を診る機会を少なくしてはならない.患者の症状そのものから診断の手がかりを得,また,治療方針を教えられることが多い. Dいかなる“クスリ”といえども,生体にとっては異物であり,毒物であることを銘記すべきだ.病人を治すのは,あくまで自然に内在する治癒力であって,われわれが治すものではない. E不幸にして患者が亡くなられた場合は,出来る限り病理解剖をお願いする.死因を究明し,自らの思考を反省することによって正しい経験が積み重ねられる. F医師は医療チームのリーダーである.スタッフ全員から敬愛され,チーム全体の活動が患者にとって最善になるように努めねばならない. G日常の仕事の惰性の中に埋没して初心を忘れてはならない.医学,医術の研鑽には限りがなく,また,その研鑽の成果を発表し,書いておくことも必要である. H医師は,その3分の2は専門書を,3分の1は専門外の書を読むべきである.学問を深めることによって,人間の尊厳を実感できる自己を形成してゆける筈だ. I最後に,よい医師とは,よい人間に通ずる.よい人間たりうるには,人間を知り,人間を愛し,そして自ら苦しむことによって得られる. 秋田は酒の国,美人の国といわれる. 秋田の素朴で飾り気のない人情にふれながら,ウイリアム・オスラー博士の「平常の心」を持って,これからの闘いの日々を歩んでいって頂きたい. |
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